魔法使いの嫁
草色の蝋燭の灯り。塩入りの林檎酒。ローズマリーの枝と百合の花。それが秘密の集いに加わるための招待状。 竜の呪いを解く方法を求め、チセとエリアスは古今の呪いに通じる魔女たちの集会に同席する。 そして茨の魔法使いは立ち返る。命を繋ぐには、別の命…
空覆う巨影。渦巻く炎の息。生きとし生けるものの恐怖を形にしたかのような古の姿を取り戻した竜は、ロンドンの空を舞う。だがチセにはそれが、戸惑う幼子のように感じられた。 チセは竜の背に乗り、彼の魂を鎮めようとする。しかしその代償は大きく、彼女の…
それは夢の中の出来事。しかしチセは確かに彼と会い、言葉を交わした。チセたちがカルタフィルスと呼ぶ魔術師と。そして彼の中で彼と共に在る、何者かとも。 竜の国から連れ去られた雛たちを取り戻すべく、学院の魔術師たちと競売場に向かったチセとエリアス…
チセと友達になったステラは、すぐさまエインズワース邸を訪れた。彼女の子供らしい率直さが、チセには少しだけ眩しい。 だがステラが来た直後から、エリアスの様子が落ち着かない。彼はその身を獣のような姿に変えると、逃げるように駆け去った。 エリアス…
「弟なんていらない!」 少女ステラが口にした心にもない一言は、 恐ろしい出来事を引き起こす。 弟イーサンは消え、父も母も弟のことを忘れた。 イーサンを覚えているのは 言葉を発したステラひとりだけ。 弟を探すステラと出会ったチセたちは、 灰ノ目が仕…
野山は雪をまとい、旧き女神と神獣が森を闊歩する 最も昼の短き頃。 クリスマスが近づき、活気づくロンドンの街で再会した 魔法使いの弟子と魔術師の弟子。 大切な人のためにプレゼントを選ぶ二人だが、 何を贈ればいいものか、見当すらつかない。 一日を共…
行き過ぎた魔力の行使に悲鳴をあげるチセの体。 チセの傷を癒やすため、 エリアスは彼女を抱えて妖精の国へ向かう。 ティターニアは問う。 人の世で疎まれ、魔力に耐えられぬ愛し仔と、 人の為りそこないと謗られる茨の魔法使いが、 なぜ人の世に居続けるの…
愛した相手に才を与える代わりに、命を奪う吸血鬼、リャナン・シー。 彼女にとって愛すことと、大切な存在を失わぬため愛さぬことは、 どれほどの違いがあるのだろう。 彼女の想い人、ジョエルの命は尽きかけていた。 その胸の内には、薔薇の園で見た一瞬の…
完野に森に、夏の足音が聞こえだした頃。 風に舞う綿蟲たちの毛刈りに追われるチセとエリアス。 竜の国から急ぎ帰ったチセには、 伝えたい想いがあるはずだった。 しかし、それはいつ、 どんな形で伝えたらいいのかが解らない。 そしてエリアスもまた、己の…
完成した杖に触れた瞬間、チセは幻視する。 無数の閃光の先に広がる、 霧に包まれた巨木の群れを。 縁(えにし)の糸が結ばれ、 彼女はかつて見送った竜と再会する。 自ら命を絶った母、自分を置いていった父。 その本当の思いは、今となっては知る術はない。 …
ヒトのふりをしたがる、奇妙な為り損ない。 いつしかエリアスが 己のことを話さなくなったのは、 師の教え故か、 人への苦い記憶がそうさせるのか。 リンデルの二つ名、白花の歌(エコーズ)の由来。 その歌は雪解けの水音に似て、朗々と風に乗り、 季節外れの…
海豹人(セルキー)と共に竜の背に乗り、 チセはリンデルの許へと向かう。 自分だけの、魔法使いの杖を作るために。 エリアスに「飼われるままでいる」ことを 拒もうとしないチセを見かね、 リンデルは夜の闇の中から エリアスを見出した頃の話を始める。 その…
教会の案件はすべて片付き、 おだやかな日々が戻ってくるはずだった。 だが最後の一件以来、エリアスの様子がおかしい。 チセが初めてエリアスの部屋で一夜を過ごした翌朝、 彼はこつ然と姿を消した。 チセの身を案じるアンジェリカの言葉も、 人より純粋な…
アリスは変貌したエリアスを見て、直感する。 これは、けしてヒトには為り得ぬものだと。 レンフレッドとアリスを操り、 黒妖犬(ブラック・ドッグ)を手に入れようとしていた魔術師カルタフィルス。 彼の「作品」にチセを傷つけられたエリアスは、今までとは違…
たなびく漆黒の毛並み、 燃えるように赤い目をしたその犬は、 チセのことをイザベルと呼んだ。 教会からの最後の案件は、 とある墓地に現れた黒妖犬(ブラック・ドッグ)の検分。 だが、見定めるべき彼の助けで チセはからくも難を逃れる。 一方、レンフレッド…
本来還るべきところに、還っていく魂たち。それを見送りながらチセは自身を想う。 ウルタールの一件から10日と数日が過ぎても、チセは眠りに落ちたままだった。彼女を案じるエリアスとサイモンの前に、予期せぬ客が姿を現す。 それは常若の国(ティル・ナ・ノ…
魔法使いに騙された、哀れな少女。魔術師レンフレッドにはそう見えていた。 だがチセは、エリアスの真意がどうあれ、彼から離れるつもりはなかった。 なぜならエリアスは、初めて自分を必要としてくれた存在だから。 チセは澱みの中に歩みを進め、惨禍の真相…
猫の集う街、ウルタール。その昔ウルタールでは、人と猫との間に悲しい出来事があった。 惨禍の中心にいたものの魂は澱みとなり、代々の猫の王により封印され続けている。 ふたつ目の案件を解決するため、この街を訪れたチセとエリアスは、そこに残る妄念を…
教会の命を受け、エリアスを監視する聖職者サイモン。彼はエリアスたちに、3つの案件を伝える。 そのひとつを解決するため、最果ての地に赴むいたチセとエリアス。そこではエリアスの師、リンデルと、滅びに瀕した旧き種族が待っていた。 今まさに大地に還ら…
ロンドンの片隅にある古書店。その本当の姿を知るものは少ない。 エリアスに連れられ、彼が古くから取引を続ける 魔法道具の工房を訪れたチセ。工房の女主人アンジェリカは、チセにささやかな魔法を教えるが……。 夜の愛し仔(スレイ・ベガ)のまことの力が、彼…
この世界で生きることを投げ出そうとした15歳の少女、羽鳥チセ。彼女はオークショニアの誘いに応じ、自分自身を商品とし、 闇の競売会へ出品する。 ヒト為らざる魔法使い、エリアス・エインズワースに500万ポンドの値で買われ、将来の「花嫁」として迎えられた…